
まえおき
こんにちは。こくご(古文)のさるです。
おかげさまでバズり中の国語便覧を、NHK「あさイチ」でも取り上げていただきました!
嬉しかったけど、大河ドラマの話題は「光る君へ」がメイン。江戸文学専攻としては「べらぼう」の話もしたかったな…
大河ドラマですって!!?
語れなかった大河ドラマを語る
あなたは、大河ドラマガチ勢のしかさん!
はじめまして!今年からコラムラボのメンバーになった歴史担当のしかです
特にコロンブスの記事は検索候補上位に出てくる自信作です!
さて、大河ドラマと聞こえたので馳せ参じました。ご紹介いただいたように私は大河ガチ勢。推し大河は「葵 徳川三代」(2000年)。次いで「太平記」(1991年)と「独眼竜政宗」(1987年)
さすがガチ勢。流れるように推しを紹介し、生まれる前の作品も履修済みだ
そんな大河ガチ勢のしかさん的「べらぼう」の見所を聞いても?
江戸城の場面ですね。田沼意次(渡辺謙)と松平右近将監(石坂浩二)が対峙するシーンは、「往年の大河」風味が濃くて好きでした
往年の大河ってなんぞ

さるさんの専門は江戸時代の文学ですよね。「べらぼう」はいかがです?
横浜流星たまらんち
こらTPO。違う、そうじゃない
真面目に言うと、太平の江戸時代の、しかも本屋にフォーカスしてくれて、まさに「ありがた山の寒がらす」※という気持ちです。
※江戸時代の言葉遊び、「べらぼう」の第一話のサブタイトルにもなっている。
悪そうな鶴屋(風間俊介)、好々爺の須原屋(里見浩太朗)…和本で目にしていた人物たちが、生き生きと演じられているのはたまらんですな
ドラマの題材として取り上げられる機会も少なかったですもんね
超メジャー古典作品の『源氏物語』に比べると、江戸が舞台の「べらぼう」の青本や黄表紙は知名度が低い…
たしかに。作中だと『文武二道万石通』『鸚鵡返文武二道』といった作品が登場しましたね
「べらぼう」と国語便覧・資料集
それぞれ朋誠堂喜三二と恋川春町の黄表紙だね。国語便覧には載ってるよ

ほんとだ、『文武二道万石通』載ってますね。『鸚鵡返文武二道』はどこ…?
僕には見えるんです。「近世の戯作」ページの増補は僕の宿願なので!!
それは野望として胸にしまってもろて…
便覧でも寛政の改革に触れてますね。歴史担当としては見逃せない。
山東京伝が処罰された洒落本のことも書いてあるよ。こうしてみると、蔦重は松平定信に苦しめられたのがよく分かる。憎らしい…
いえいえ、歴史担当として、定信をただの敵役で片付けるのはもったいないと言いたい。ご覧ください、この幅広い政策を!

山盛りだ…
例えば、定信は飢饉や災害に備えて米やお金を蓄えさせる政策を進めました
これって備蓄米の発想!江戸時代からあったのか!
飢饉対策は為政者の責務ですしね
表を見て気づいたけど、出版を統制した一方で朱子学は奨励したんだ
そうですね。上下の身分秩序をわきまえるべき、と唱えた朱子学が政府に都合よく重宝された一方で、批判も高まっていました
次にこちらを御覧ください、これは倫理の資料集です
教科横断!

図のように朱子学への批判が高まる中、定信は身分秩序を重視した朱子学こそ正統な学問だと改めて表明し、その復興を図ったのです
「ぶんぶといふて夜もねられず」※なんて言われたけど、「文武(=学問と武道)」には本当に熱心だったんだね
※「世の中に 蚊ほどうるさき ものはなし ぶんぶといふて 夜も寝られず」という定信の寛政の改革を皮肉った有名な歌、作者不詳。
ここから本題
松平定信が始めた「学問吟味」
定信は、学問に励めと言うだけでなく、学力試験を行って優秀者を登用する「学問吟味」という制度まで作っています
科挙みたいな?
そうです!
幕臣が対象ではありますが、身分の低い者でも成績がよければ出世できる可能性が開けました
どんな問題が出たんだろう?
儒教の基本経典である四書五経の内容や、歴史などが問われたみたいです
旗本御家人II - 4. 学問吟味(多聞櫓文書)(がくもんぎんみ) : 国立公文書館
数日間かけて実施してたんだね。受験も大変だ…
それで、この試験を知った時から思ってたんですけど
これ、私たちもやってみませんか?
え?
解いてみてもいいんじゃないかなって
えええ?!?
ふだんは教科書や問題の作り手だけど、たまには解き手の立場にも立たないとなって
たしかに、問題を作ってるだけだと解く側の感覚は失われるだけかも…?
とりあえず、やれるだけやってみようか!
問題とルールの確認
よさそうな問題を見つけました
学問吟味に合格し、のちに役人として蝦夷地に派遣された近藤重蔵の記録です

ザ・古文書だね
合格者の記録なのに「支離失體」…支離滅裂みたいなことが書かれてる…
辛口すぎる
これは予備試験で出題された初学者向けのもので、青で囲った箇所が問題のようです
調べたところ、「章意・字訓・解義・余論」という小項目に分けて解答したみたいだね
章意は文章の意味づけ、字訓は言葉の意味、解義は内容の解説、余論はその他の解説、といった感じですね
これ、ノーヒントだと歯が立たない可能性あるよね?
たしかに…辞書やネットはNG・自社の教材は使ってOKということにしますか?
それでいこう。時間は30分くらいかな。とりあえずやってみよう!

いざ、「学問吟味」にチャレンジ!

近世の古文書と戦ってきた腕を見せてくれるッ
問題の旧字体がやっかいだな…
どこで区切ればいいのやら…
とりあえず送り仮名と返り点をつけて、訓読文を作っていくところからはじめよう
一文目

最初の「仲弓」は孔子の弟子でしたっけ?
国語便覧に載ってるんですよこれが!

さすがです
孔門十哲だから、孔子の有力な弟子だったんだね
「為」はどういう意味なのか…
いっぱいある…

その次の「季氏」とは?
調べるの不可能じゃないかこれ…
ん?ちょっと便覧の孔子の年表見て?


便覧に載ってる!?!?
なんてこった!便覧すげえ!
魯の大夫で、三桓子というお偉いさんの一人なのか~
倫理の資料集でも、季康子という人が孔子に政治のことを聞いている文章を見つけました!

季氏が孔子の一派と近い関係にあったことは間違いなさそうです
うおおお!!!
「仲弓為季氏宰」は、仲弓が季氏の宰相になっているという意味でとれそうだね
これ教材使うと無双しちゃう…?
その下は「政(まつりごと)を問う」と読めば区切れるね。「子曰く」からは孔子の言葉だ
二文目

「有司」のワードは、日本史で習う自由民権運動の定番史料で登場するんですよ

「有司専制=政府中枢だけで政治を行うこと」を批判していますが、とりあえず官僚という意味でとれば間違いはないかと
おおお!
その下は「小さい過ちを許す」だと思うけど、続きはなんだろうな…
「過」の下の字は何でしょうか。奉?學?
「賢」の下もよくわからん…「戈」に見えるけど、「才」かな
賢い才能、の方が自然ですよね
「賢才」から一二点で戻って、奉か學?なんだこの字…
これ以降もこの字がわらわら出てくる…
とりあえずスルー
「才」の下に「曰」があるから区切れるね。ここからは仲弓の発言
三文目

「曰」から始まる発言の一文字目は…「為」ですか?
これは「焉」だと思う
いずくんぞ!そんな表現ありましたね
疑問の意味で使っているんじゃないかな。「焉んぞ賢才を知らん」と読めそう
また謎の字が出てきて「曰」で区切る
四文目

ここから孔子の発言だけど、また謎の字…
どこまでも付きまとってくる…
さっきもそうでしたけど、この字を動詞として扱うのは確定ですかね?
そうだね。形似てるし、仮で「奉る」にしておこう
謎の字の後は「爾所知 爾所不知」と、対のように書かれているね
「なんじの知る所、なんじの知らざる所」みたいな雰囲気?漢文っぽい!
漢文は英語と同じSVOの構造だから、「なんじの知る所を~し、なんじの知らざる所は~する」と読むはず
なるほど。それで最後に「人其舎諸」を読むのですね
え?これはなんて読めばいいんだ?
ん??動詞か名詞なのかも分からん…
孔子の弟子に「舎諸」いないかな?
政治の極意を聞いてる様子なのに、まさかの人で終わり?
違うよね…文法の教材にも載ってないなあ
動詞と名詞の文章と読むなら、「舎」が動詞、「諸」は名詞で「もろともに」みたいな感じかな…?
タイムアップ!

問題にたどり着いてない…
おかわりするしかないね笑
でもちょうどいい難易度ですね。頑張ればイケそうな気がしてきた
問題は解けそうな感触。ただここからどうすればいい?
???「漢文のことなら私に任せたまえ」
あなたは…!

後編へ続きます!
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