第一コラムラボ

このたびは,第一学習社 Column Lab.(コラムラボ)に,アクセスいただきありがとうございます。コラムラボは,身の回りの事柄や最新のニュースをコンテンツ化して,学びへの探究心をくすぐるコラム教材を掲載する第一学習社のWebメディアです。

【高校生物】 実は既に末梢性寛容について学んでいた?ざっくり分かるノーベル生理学・医学賞2025年

Ill. Niklas Elmehed © Nobel Prize Outreach.

本記事では2025年のノーベル生理学・医学賞の受賞内容を、高校生物に紐づけながら解説する記事です。

はじめに

今年のノーベル生理学・医学賞が発表されたね。

おお! どんな内容だったの?

今年は末梢性寛容に関する発見に対して、アメリカのメアリー・E・ブランコウ氏、フレデリック・J・ラムズデル氏、そして日本の坂口志文氏の3名が受賞したよ。

 

Nobel Prize in Physiology or Medicine 2025 - NobelPrize.org

www.nobelprize.org

 

おめでとうございます!!!

今年は日本人の受賞も続いて※めでたいです!!

※翌日の化学賞でも、北川進氏が金属有機構造体(MOF: Metal–Organic Framework)に関する業績で受賞しました。

で、末梢性寛容ってなに?

おっけー。解説していくよ。

 

高校生物目線での本稿のポイント!

☑2025年のノーベル生理学・医学賞は、免疫寛容に関する研究成果で日本人も受賞!

☑制御性T細胞は、免疫寛容に関わる! 実は教科書にも登場している!?

☑制御性T細胞は、自己免疫疾患に関わる!

 

本稿のキーワード!

用語 説明
免疫 体内に侵入した病原体を、白血球によって排除するしくみ。
白血球 赤血球と血小板以外の血球の総称。免疫に関わる。
T細胞 白血球の一種。他の白血球を活性化するヘルパーT細胞と、感染細胞などを攻撃・破壊するキラーT細胞、本稿で取り上げる制御性T細胞が存在する。
胸腺 T細胞が分化・成熟する器官。免疫寛容のうち、中枢性寛容の場。
免疫寛容 ある抗原に対して獲得免疫反応がみられない状態。中枢性寛容と末梢性寛容に分けられる。制御性T細胞は末梢性寛容で中心的な役割を果たす。
自己免疫疾患 自己の物質に対して免疫反応が起こり、組織が傷害されたり、機能異常が生じる疾患。制御性T細胞が関わる。

とりあえずここまでのキーワードはなんとなく頭に入れて抑えておこう

 

免疫寛容とは

さてさて、免疫については高校の「生物基礎」科目で学習するのだけど。

体内に侵入した病原体からからだを守るしくみだね。

免疫の概要

そうだね。でも、免疫で働く細胞のうち、T細胞と呼ばれるものでは、病原体だけじゃなくて、自分のからだの細胞を攻撃するものも出てくるんだ。

免疫は自分を守るものなのに、自分の細胞を攻撃したら本末転倒やん。

※:体内では自己抗原に反応するB細胞も生じますが、本稿では簡単のため割愛して説明します。

やばいじゃん。

やばいです。

自己抗原に反応するT細胞

どうすんの。

そこで登場するのが免疫寛容というしくみで、じぶんのからだの細胞を攻撃するT細胞を死滅させたり、その働きを抑制したりしている

やばくないじゃん。

免疫寛容

中枢性寛容と末梢性寛容とは

で、免疫寛容には種類があるんだって?

免疫寛容は中枢性寛容と末梢性寛容に分けられて、今年のノーベル生理学・医学賞は、この末梢性寛容に関する成果を挙げた研究者に贈られたってことだね。

中枢性寛容と末梢性寛容については、『二訂版スクエア最新図説生物』p.184で詳しく扱っているよ。

『二訂版スクエア最新図説生物』p.184

免疫に関わる細胞を病原体という外敵と戦う軍隊に例えると、中枢性寛容における「正の選択」は、外敵と戦えない軟弱者をドロップアウトさせる、みたいな感じかなあ(個人的見解です)

鈍感で戦えない奴は戦場には不要・・・。

「負の選択」は、味方ともめごとを起こしがちな人を処罰するみたいな感じかなあ(個人的見解です)

スクエアのグラフを見ると、自己成分と強く結合しすぎる奴らってある。

そうそう、自己免疫疾患起こす前にここで排除!

中枢性寛容の個人的イメージ

末梢性寛容は?

末梢性寛容は、軍の規律を維持する憲兵とか将校みたいな感じかなあ(個人的見解です)

末梢性寛容の個人的イメージ

中枢性寛容の選別をくぐり抜けたやつは、末梢性寛容の仕組みで監視されるということ?

そう、ここではT細胞は排除されないものの、万が一の暴走をしないように監視され、働きが抑制されるというわけ。

「生物基礎」教科書では中枢性寛容や末梢性寛容って言葉は出てこないけど、「自分を攻撃する細胞の働きを抑制する」というのは、末梢性寛容についての記述なんだね。

そうそう。生物基礎を学習した人は、実は既に末梢性寛容について学んでいたんだね。

制御性T細胞とは

日本人受賞者の坂口先生はどんな研究をした人なの?

坂口先生は大阪大学の先生で、末梢性寛容で中心的な働きをする制御性T細胞を発見したよ。さらに、共同受賞者であるブランコウ氏とラムズデル氏が同定したFoxp3という遺伝子が、制御性T細胞への分化にとって重要だということも突き止めたんだ。

免疫反応を抑制する細胞(=制御性T細胞)の存在については疑問視されていたようだけど、そんな逆境のなかで研究を続けて、歴史的発見に至ったのは素晴らしいね。

しかし、何らかの制御するT細胞が存在しないと、どうしても免疫反応を説明することができないのです。何か制御する細胞があるはずです。その信念で、細々と研究を続けていました。

制御性T細胞は 何をつたえているのか - ResOU

疑問視されつつも、自分を信じて、偉大な発見するのはカッコよすぎる。

『二訂版スクエア最新図説生物』p.176

制御性T細胞は自分の細胞などに対する免疫反応を抑制していることから、自己免疫疾患に関わっているとされていて、こうした疾患の治療への応用について、現在も研究が進められているようだね。

ほかに、がん細胞が制御性T細胞を利用して、自身への免疫反応を抑制することも知られていて、がん治療に関する研究もされているらしい。

ノーベル賞受賞を機にもっと免疫の研究が進んで、社会にインパクトを与える成果が出るといいね!

最後に

今年のノーベル生理学・医学賞に関連する問題を作ってみました。復習がてら取り組んでみてね。

次の生徒Aと生徒Bの会話文を読み、空欄( 1 )〜( 4 )に入る最も適切な語句の組み合わせとして正しいものを、下の選択肢から選びなさい。

生徒A:ねぇ、どうして私たちの免疫は、自分自身の細胞を攻撃しないんだろう?
生徒B:それは、( 1 )のおかげだよ。自分のからだの物質を標的とする免疫細胞を、あらかじめ排除したり、反応しないようにしたりするしくみのことなんだ。
生徒A:なるほど。リンパ球の一種であるB細胞や( 2 )が対象になるんだったっけ?
生徒B:そう。その( 2 )は、( 3 )という器官で分化・成熟する過程で、自分の細胞を攻撃する能力をもつものは厳しく選別されるんだ。これは中枢性寛容と呼ばれているよ。
生徒A:中枢性寛容で、自分の細胞を攻撃するものはすべて排除されるの?
生徒B:いや、そんなことはないんだ。だから、自分の細胞を攻撃するものの働きを抑制する末梢性寛容というしくみも備わっているよ。
生徒A:もしこれらのしくみがうまく働かないと、どうなるの?
生徒B:自分の細胞を攻撃してしまうようになって、( 4 )と総称される病気になってしまうことがあるんだ。
生徒A:よくわかったよ。この( 1 )のしくみは、自分のからだに対する攻撃を避けるために非常に重要なんだね。

解答付PDFダウンロード

※このデータは無料で提供されていますが,再配布は禁止されています。このデータは,教育機関での利用または非商用目的でのみ使用することができます。このデータを、第三者に再配布することは禁止されています。

 

合わせて読みたい

Nobel Prize in Physiology or Medicine 2025 - NobelPrize.org

www.nobelprize.org

 

【速報】坂口志文先生 ノーベル生理学・医学賞受賞決定!!! - 大阪大学

www.osaka-u.ac.jp

 

制御性T細胞は 何をつたえているのか - ResOU

resou.osaka-u.ac.jp

 

がんと制御性T細胞 | 国立がん研究センター 研究所

www.ncc.go.jp

 

「制御性T細胞」をつくる・増やす-中外製薬と大阪大学免疫学フロンティア研究センターの共同研究チームが挑む細胞療法の可能性

www.chugai-pharm.co.jp