はじめに
教科書や資料集を読んでいて,知らない言葉が出てくることはありますか?
もしかしたら「教科書出版社の編集部で働いている人間ならそんなにないだろう」と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが,まったくそんなことはなく,編集者といえど,知らない言葉に遭遇することはよくあります。
今回は,国語担当が業務中に見つけた言葉,「汗青」について調べてみました。
「汗青」の意味
調べる前の想像
(今回の場合,国語担当は答えを知っていたので,下記想像は,『これ分かります?』と持ちかけられたチーム内の非専門者がしております。記事の監修は専門のものが行っています,安心してください。)
青い・・・汗?
青ざめた時に出る冷や汗みたいな・・・?
文脈なしでは難しかったので,ヒントを国語担当に求めると,短く『んー。汗簡(かんかん)はご存知ですか?』と。
また汗かよ。
検索する
手詰まったので,手っ取り早く,まずはインターネットで検索。
ここは躊躇せずにテクノロジーに頼ります。
お馴染みデジタル大辞泉対応のコトバンクを開いてみます。
《昔、中国で、火にあぶって汗のように染み出る油を取り去った青竹に文字を書いたところから》記録。史書。汗簡。殺青(さっせい)。
出典:デジタル大辞泉
どうやら竹に記録された文書,多くは歴史書簡のことを指すようです。
世界史で学んだ通り,古代中国では紙が普及するまで,竹や木などを用いて文書を記録していました。
しかし,竹はそのままだと記録には使いづらい植物です。
生えているときは青く,含まれる油脂分によって,インク(墨や漆)がのりにくかったので,火炙りして汗のようににじみ出る油脂分を抜いて,文字を書けるようにしていたのでした。
以上の行程を経た竹に,なにかしらの記録されたものを,汗青,という名で呼んでいました。紙が発明されるまでは,汗青に歴史の記録をとっていたことから,歴史や歴史書のことを青史(竹に記述された歴史)とも表現します。
ヒントで与えられた汗簡というのは,なんか汗だくでベトベトになった筒ではなく,汗青の別名だったのですね。
知識を深める
さて、補足です。
現在の製紙技術の基礎は中国で発明され,世界中に広がりましたが,古代中国において,紙の普及まではどのような方法でその記録を残してきたのでしょうか。
少し調べてみました。
- 竹(汗青のこと)
- 木
- 絹
・・・絹!
絹は初めて聞きました。絹で記録されたものを帛書(はくしょ)と呼ぶそうです。
ただし,非常に高価な上に,竹や木と比較して,保存性に難があるということで,記録媒体としてはあまり普及しなかったという背景があります。
古代中国以外に目を向けてみて,筆記される記録媒体だと,植物性であればエジプトのパピルス,動物由来の素材で羊皮紙,よりハードな素材なら石やメソポタミアの粘土 などがありますね。
個人的には記録媒体で使っていくならば,本記事でも使われている竹が加工しやすく,成長も早いことからもっと広まってもいいと思っていたのですが,竹の原産地がそもそも中国近辺だということが,調べていて分かりました。
メソポタミアの粘土にも理由があって,
古代エジプトでは、文字はパピルス(紙)に書いたり、石に刻んだりしましたが、メソポタミアでは、粘土を用いました。それは、ティグリス川とユーフラテス川の2本の川が流れこむメソポタミアの南部が沖積平野であるため、粘土を入手しやすかったからです。川辺には筆として使った葦も生えていたことでしょう。
上記引用の通り,粘土が入手しやすかったということが分かります。
文明の発達には,その発祥の地の利が深く関わってくると気付かされます。
おわりに
今や誰もが手元のスマートフォンで手軽に調べ物が出来る時代です。知らない言葉があれば,調べてみましょう。より深く掘り下げるとさまざまな発見につながるかもしれません。ついでに周りの人にクイズを出してみると,盛り上がったり一目置かれたりするかもしれません。
建築現場の竹製足場は,日本では見られない光景ですね。
竹は現代中国でも立派に活躍しています。
参考資料
新版六訂 カラー版新国語便覧 副教材のご案内(国語)|第一学習社
グローバルワイド 最新世界史図表 四訂版 副教材のご案内(地歴)|第一学習社
→ 中国における記録媒体について,古代からその流れをまとめた論文。