第一コラムラボ

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【言葉を調べてみよう】『役宅』とは?

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河島家住宅(石見銀山附役人・島根県)

 

はじめに

教科書や資料集を読んでいて,知らない言葉が出てくることはありますか?

もしかしたら「教科書出版社の編集部で働いている人間ならそんなにないだろう」と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが,まったくそんなことはなく,編集者といえど,知らない言葉に遭遇することはよくあります。

今回は,「最新日本史図表」の編集作業中に遭遇した,p.196 地図「近世の交通網と買積船」の凡例内「郡代・代官の役宅・屋敷」の「役宅」について調べてみました。

「役宅」の意味

調べる前の想像

屋敷とセットで書いてあるし,「宅」という字があるし,家ということだろうけど,屋敷とは違うのだろうか…?特別な家なのだろうか…?

検索する

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手っ取り早く,まずはインターネットで検索。コトバンクを開いてみます。

 

kotobank.jp

出典が2つあって,比較できるのが良いですね。

特定の役目に当たる人が住むために設けてある住宅。官舎。

出典:デジタル大辞泉

〘名〙 その役目に当たる人の住居とする家。役人の住宅。役邸。

出典:精選版 日本国語大辞典

なるほど,「役宅」の「役」は役目,役職という意味だったんですね。しかし,「特定の役目」「その役目」とは具体的に何を指すのでしょう?

知識を深める

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出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/kyuhaku/P15013)をトリミング

より詳しい解説を調べるために,辞書を引きます。なかなか役宅の解説に当たりませんでしたが,『国史大辞典』に詳しい記述がありました。

 

江戸時代、幕府の役人中には、その役職に補任されると役所として定められていた特定場所の屋敷に住居を移し、在職中はそこに住むよう規定された役職があり、その屋敷を役宅あるいは役屋敷と称した。(以下省略) 
出典:国史大辞典 第十四巻

 

これに続く記述には,『史徴』(幕末に向山源太夫が著した,江戸幕府の職制を記した書)に役宅の記載のある役職が載っていました。

 

  • 町奉行…町方の行政・司法を担当
  • 勘定奉行…幕領の租税徴収や訴訟,幕府財政の管理などを担当
  • 火消役…幕府直轄の消防組織(定火消)の指揮者
  • 御蔵奉行…江戸幕府の職名で,米蔵の出納や切米の支給を担当
  • 川船改役…江戸や関東農村の河川を管掌し,役船の徴発や船税の徴収を担当
  • 天文方…江戸幕府の職名で,編暦を担当
  • 浜吟味役…浜御殿(将軍家の別邸)の管理・運営に関わる業務を担当

 

 実は時代劇によく登場している役宅

「大岡裁き」で有名な大岡忠相は,江戸時代中期に江戸南町の町奉行を務めていました。大岡忠相が主人公のドラマ「大岡越前」では,毎回のように忠相の自宅(役宅)が登場しています。

桜吹雪の刺青で有名な「遠山の金さん」の主人公,遠山金四郎(遠山景元)も,江戸時代後期に北町と南町の町奉行を務めていた人物です。
役宅を知った上で時代劇を見てみたら,以外といろいろな作品に登場しているかもしれません。

天文方の仕事とは? 

天文方が置かれる前,日本は中国から輸入した暦(宣明暦)を800年間以上使用していたため,かなりの誤差がありました。そこで渋川春海は,中国の暦(授時暦)を元として,日本と中国との経度差から測定した「大和暦」を完成させ,当時の元号からとった「貞享暦」として採用されました。その後,渋川春海は初代天文方に任命され,以降編暦は天文方の役目となりました。渋川春海が主人公の映画「天地明察」(2012年公開)では,改暦への道のりや苦悩を感じることができるので,興味のある方は鑑賞してみてはどうでしょうか?

 

このほかにも,囚獄右出帯刀(右出帯刀は囚獄の世襲名で,牢屋の取締りを職務とする),遠国に派遣される役人にも現地で役宅が設けられていたそうです。現在でいうところの公務員の住む官舎ですね。

現存している役宅もいくつかあるようですので,近くに来た際にはぜひ訪ねてみてはいかがでしょうか?ちなみに,弊社のある広島県にも「役宅」がありました。かの有名な国文学者・頼山陽の叔父にあたる人物の役宅です。

www.hiroshima-kankou.com

三次市三次町の旧館内と呼ばれる一画にあり、約130平方メートルの単層茅葺の家屋です。別名を運甓居(うんぺききょ)といい、頼山陽の叔父杏坪が三次町奉行をしていた当時の役宅です。

頼杏坪役宅(ひろしま観光ナビ)より

おわりに

今や誰もが手元のスマートフォンで手軽に調べ物が出来る時代です。知らない言葉があれば,調べてみましょう。より深く掘り下げるとさまざまな発見につながるかもしれません。ついでに周りの人にクイズを出してみると,盛り上がったり一目置かれたりするかもしれません。