第一コラムラボ

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【SNS活用】Twitterで発見した「おかしみ」を感じるための学び〜2020年米国大統領選編〜

 

 

すごい勢いで流れるタイムラインに,それはあった。

 
去る2020年,4年に一度の大イベントであるアメリカ大統領選挙が行われました。当時の現職であるトランプ大統領は,前回出馬時の2016年の選挙(対ヒラリー・クリントン)のときも,最後の最後まで展開が読めない大接戦を繰り広げました。前回の2016年選挙もかなり劇的であったと記憶しています。しかし今回もまた,訴訟,陰謀論,アカウント永久停止,様々な意味で歴史に残る選挙だったと言えるでしょう。

さて,そんな今回の米国大統領選挙2020。速報にて大勢は,ほぼ民主党ジョー・バイデン氏に決した11月8日頃に,筆者はTwitterのタイムラインで下記のTweetを発見しました。

 

 

筆者はこの短歌を見つけた時に「うまい!」と,ツイ主さまへ座布団を提供したい気持ちになったのですが,しばらくして考えると,これを面白いと感じるためには,ざっと

日本史,古典,現代社会,政治経済,地理

あたりの知識が前提として必要になってくることに気が付きました。つまり,この短歌に詰め込まれた要素を元ネタへ分解していくことは,多視点的で良質な学びになるような気がしたのです。

 

分解開始!

まずは,短歌の部分をもう一度みてみましょう。

一行目が上の句,二行目が下の句です。

 

身はたとひ(初句) ネバダの野辺に(二句) 朽ちぬとも(三句)

メイクアメリカ(四句) グレートアゲイン(五句)

 

字余りもなくしっかり綺麗な短歌になっていますね。では,分解をしていきます。

読解の軸となる知識

まず第一の読解の軸となるのは,日本史の知識,幕末の内容になります。明治維新の中心となった長州維新志士の師である吉田松陰の辞世の句「留魂録」の冒頭句がそれになります。安政の大獄で投獄された彼は,死期を悟り弟子へ遺言を残します。

 

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吉田松陰肖像|Unknown author, Public domain, via Wikimedia Commons


 

その句がこちらになります。

 

身はたとひ 武蔵の野辺に 朽ぬとも

留置かまし 大和魂

 

上で示された歌とによく似ていますね,なぜならこちらがオリジナルです。

現代語訳しようと思うと,古典の知識が少し必要になってきますね。ざっくり意訳すると「たとえ身体が武蔵の地で朽ちてしまおうとも、大和魂だけは留めておきたいものだ」という感じでしょうか。

辞世と落選を掛けて表現している点に,とても技巧が凝らされていると感じました。

続いて上の句・下の句に分けて解説していきます。

 

上の句『身はたとひ ネバダの野辺に 朽ちぬとも』

初句と三句は変更されてないので,注目すべきは二句になります。

「ネバダの野辺に」ですが,読み解きには政治経済・現代社会の知識になります。今回の選挙ではネバダ州の勝利がいくつかあるターニング・ポイントの一つでした。結果としてこの州は民主党(=バイデン氏)が制したのですが,得票率50.06%という過半数ギリギリでの勝利でした。開票状況のニュースもこの州は,リアルタイムで手に汗握る流れだったのを覚えています。

地理の知識もあると良いでしょう。

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画像引用:GoogleMap

ネバダ州にはかの有名なラスベガスがあります。日夜ギャンブルが行われている,きらびやかな都市です。つまり何かと勝負に縁のある州ですね。気候もネバダの野辺というよりほとんど荒野ですね,とても厳しい土地です。

またネバダ州は1912年以来,一貫してアメリカ合衆国大統領の当選した方を選んできています。ただし例外があり,1976年当選カーター政権、そして2016年当選トランプ政権なのです。そんな州で前回のリベンジが果たせるか・・・その瀬戸際で,勝てなかった。そんなところが松蔭処刑の地だった「武蔵の野辺」になんとなく通ずるところがあります。ちなみに武蔵は江戸,現在の東京近郊です。

 

下の句『メイクアメリカ グレートアゲイン』

まず,何より「メイクアメリカ グレートアゲイン」の下の句としての語呂の良さに目がいきます。そして,この文の出典は,トランプ元大統領の就任演説で強調された有名なフレーズそのままになります。

 

And, yes, together, we will make America great again.

そしてそうです。一緒に、私たちはアメリカをまた偉大にするのです。

 

www.bbc.com

 

そして留魂録の方はというと,「留めおかまし 大和魂」という,やはりナショナリズムに関連した句になっています。アメリカファーストを強調し,米国内のナショナリズムを刺激したトランプ元大統領と,明治維新の起点とも言える松蔭を比較するのは,些か気が引けますが,自国の行く末を案じた言葉で紡がれた下の句という共通点があることは間違いありません。

 

おもしろいと感じるための学び。

どうでしょう,何気なく流れていくツイートですが,背景の知識が備わっていると,面白いと感じませんか?。あえて言うなら「いとをかし」と思ってもらえたら嬉しいです。このように「知っていると知っていない」では,あらゆる情報の読み取りの深さに大きな差が生まれてきます。学びというのは,受験のためだけのものではなく,日常を楽しく生きるためのものでもあるのです。

もし,この記事を読んでいるのが先生であれば,日頃の授業からSNSで見かけたような気づきや学びを紹介してみるのも面白いかもしれません。

 

出典を探す。

ツイ主さまの上記のつぶやきにもあるように「TLを流れていったけど」ということは,本当の出典元Tweetは別にあるはずで,せっかくなのでTweetを探してみました。 

おそらくこちらですね。パッとこういうウィットの利いたつぶやきが出来る様になりたいものです。

2021/06/10追記:ツイ主さまより,引用元についてのご指摘があったので,修正いたしました。ご連絡ありがとうございました。修正前はこちらのツイートを引用としておりました。

 

Thx for a hard work over the past four years.

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orange fruit on white surface photo – Free Apricot Image on Unsplash