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【数学】防衛省のミスを教訓に?大学入学共通テスト 数学Ⅰ・Aの問題を見てみよう

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2022年1月15・16日に,令和4年度大学入学共通テストが行われました。

数学Ⅰ・Aの平均点は37.96点と,センター試験を含めて過去最低点となり,受験生の皆様も苦労されたのではと思います。

本記事では,ネット上で話題となっている数学Ⅰ・ A第1問〔2〕について取り上げます。

 

どんな問題だった?

実際の問題はこちらから見ることができます。

2022年度大学入学共通テスト(本試験)数学Ⅰ・数学A|朝日新聞DIGITAL 

 

令和4年度 大学入学共通テスト 数学Ⅰ・数学A 第1問〔2〕

〔中略〕

太郎:キャンプ場の地点Aから山頂Bを見上げる角度はどれくらいかな。

花子:地図アプリを使って,地点Aと山頂Bを含む断面図を調べたら,図1のようになったよ。点Cは,山頂Bから地点Aを通る水平面に下ろした垂線とその水平面との交点のことだよ。

太郎:図1の角度θは,AC,BCの長さを定規で測って,三角比の表を用いて調べたら16°だったよ。

花子:本当に16°なの?図1の鉛直方向の縮尺と水平方向の縮尺は等しいのかな?

〔後略〕

令和4年度 大学入学共通テスト 数学Ⅰ・A 第1問〔2〕より一部抜粋

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令和4年度 大学入学共通テスト 数学Ⅰ・数学A 第1問〔2〕をもとに作成

 

地図アプリを使って調べた断面図での仰角は16度だったが,水平方向の縮尺が1/100000であるのに対し,鉛直方向の縮尺は1/25000と,縮尺が異なっていたという状況。この情報と三角比の表を用いて,正しい仰角を評価するという問題でした。

教科書や問題集で,水平距離と仰角が与えられており,建物や山の高さなどを求める問題はよく見かけますが,こちらは仰角が問われています。

今の時代,地図を使えば山の高さや距離は簡単に知ることができるので,「じゃあ仰角は何度なんだろう?」という流れは確かに自然かもしれません。

 

考え方の例

三角比の表から, \frac{BC}{AC}=\tan16°\fallingdotseq 0.2867

また,実際の水平距離は100000×AC,山の高さは25000×BCである。

したがって実際の仰角を\thetaとおくと,

\tan\theta =\frac{25000×BC}{100000×AC}=\frac{BC}{4AC}\fallingdotseq 0.071675

三角比の表より,\tan 4°\fallingdotseq 0.0699\tan5°\fallingdotseq0.0875であるから,\tan4° <\tan\theta<\tan5°がわかる。

\therefore 4°< \theta < 5°

tan\theta\frac{1}{4}になったからといって,\theta\frac{1}{4}になるわけではありませんでした。
比を利用した簡単な計算ではありましたが,縮尺の意味が理解できていないと解けない問題でした。

 

縮尺が違うと?

そもそも縮尺が違うとは,どういうことでしょうか?

地図上の1㎝で表される実際の距離は,2万5千分の1の地図上では 1cm×25000=25,000㎝=250m,
10万分の1の地図では 1cm×100000=100,000cm=1,000mになります。 
ですので,25,000分の1のほうが範囲は狭いですが,より詳細な情報が得られる地図になります。

共通テストの問題では,1つの地図内で縮尺が異なってしまっていたため,縦にびよ~んと4倍に伸びた,歪んだ図になってしまっていました。

 

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水平方向と鉛直方向の縮尺が違うと...

 

防衛省のデータを揶揄?

では,なぜこの問題が話題になっているのでしょうか?

それは,秋田さきがけ新報社が誤りを報道した,防衛省のミサイル迎撃システム『イージス・アショア』配備候補地の調査報告書に状況がよく似ていたためです。

 

www.sakigake.jp

 

イージス・アショア配備を巡る一連の流れ

防衛省は,東日本・西日本に一基ずつ配備するイージス・アショアの候補地として,新屋演習場(秋田県秋田市)・むつみ演習場(山口県萩市)を選定していました。

その後防衛省は秋田市の要請に応じ,新屋演習場の他に候補地がないか,3県(青森・秋田・山形)の国有地19か所を調査しましたが,いずれも配備に適さないとした調査報告書を発表しました。

ところが秋田魁新報社は,”レーダーを遮る山が周囲にある”という理由で配備不適とした調査報告書のデータに誤りがあると特報。

水平距離と山の高さから三角比を利用して計算したところ,例えば男鹿市のデータでは,実際の仰角が約4度であるのに対し,約15度と過大に記載されていることを発見したのです。

防衛省はデータの誤りを認め,結果的に候補地の再調査につながりました。


 

こちらが問題となった防衛省の調査報告書の一部です。
特に男鹿市は縦方向に歪んだ図となっていることがわかります。

 

問題となった防衛省の報告書

【出典】イージス・アショアの配備に関する秋田県知事及び秋田市長への説明資料 p.57(2019.5.27)|防衛省HP

 

防衛省は,Google Earthを使用して作った断面図における高さと距離の縮尺が異なっていることに気付かず,定規で測り三角比を用いて仰角を計算したそうです。


新屋演習場は市街地とも近く,住民の方々は配備に反対していました。この杜撰なデータを見て,「他の候補地が意図的に外されたのではないか?」と感じてしまっても無理はありません。

共同通信の取材によりますと,大学入試センターは

「秋田魁の報道を参考にして出題したものではない。三角比の考え方を活用できる日常の事象を取り扱った」

としているそうですが,さすがにここまで似た状況だと,参考にしたのではないかという気もします。

 

(ⅰ)新屋演習場

新屋演習場(秋田県)

(ⅱ)むつみ演習場

むつみ演習場(山口県)

(ⅰ)新屋演習場と(ⅱ)むつみ演習場の写真。新屋演習場は市街地に近いことがわかります。

 

断面図を作ってみよう

防衛省のミスは,断面図の縮尺の違いに気付かないまま角度を測ってしまったことによるものでした。
少し話は逸れますが,ウェブ上のツールを利用して断面図を作ってみることにしましょう。

①Google Earth Proで断面図を作成

まずは,防衛省も使用したとされるGoogle Earth Proで作成します。

[追加]→[パス]からパスのスタイルなどを設定し,地図上で2点を選択したら,[OK]をクリックします。
左パネルの「パス」を右クリックして,高度プロファイルを表示すると,断面図が作成されます。

 

本山ー候補地

Google Earth Proで断面図を作成

 

断面図の広さはドラッグで変更が可能なため,デフォルトでは水平方向と鉛直方向の縮尺が異なっている,縦に伸びた断面図ができてしまいました。
確かにこのまま仰角を測ると,防衛省のデータと同じく約15度となるようです。何事も見た目だけで判断してはいけませんね。

 

②地理院地図で断面図を作成

等高線から実際に断面図を描いてみても面白いかもしれませんが,次は地理院地図を使って正しい断面図を作ってみましょう。

[ツール]→[断面図]を選択し,地図上の2点をクリックします。
こちらのデフォルトでは,縦横比が7:1になっているようなので,「等倍に戻す」を選択すると,縮尺の正しい断面図ができました。

共通テストの問題と同じく,仰角は4°~5°の間に収まりそうです。

 

男鹿市
 

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地理院地図で断面図を作成

 

まとめ

共通テストの問題では,誤りのあるデータから,三角比の表を使うことで正しい仰角の範囲を求めることができました。

直角三角形の辺の長さの比から角度がわかる・角度から長さの比がわかる,というのが三角比の考え方の良さの一つですが,せっかく知識があっても,正しく使うことができなければ意味がありませんね。

数学は日常生活に役立つけど,正しく理解していないと人を騙す・人に騙されることになってしまうよというメッセージを感じた問題でした。

参考サイト

イージスずさん調査に類似と話題 共通テスト「数学1・A」三角比| 秋田魁新報社 電子版

イージス・アショアの配備について―各種調査の結果と防衛省の検討結果について―令和元年5月防衛省 (※PDFが開きます)

上記資料が掲載されているページはこちら。

関連資料 ミサイル防衛|防衛省・自衛隊ホームページ

地理院地図の使い方 断面図|国土地理院ホームページ

Google Earthで断面図を描く方法|防災リテラシー研究所ホームページ