頻発する自然災害
「まさか近所で被害が出るなんて・・・」
「この土地に何十年と暮らしているけれど、こんなことは初めて」
災害発生時のニュースでは、地域住民のインタビューの中でこのようなフレーズをよく耳にします。
日本では毎年のように大規模な自然災害が発生し、もはやテレビの向こう側の話ではなくなっています。
頻発する自然災害に対して、私たちはどのようにして命を守ればよいのでしょうか。
関東大震災から100年を迎えるこのタイミングに、いま一度、生活圏の防災を考えてみましょう。
災害大国 日本
日本は世界的に見ても災害が多く発生する国です。
地震、津波、洪水、土砂崩れ・・・
災害の種類もさまざまです。なぜ日本は自然災害が多いのでしょうか。
自然災害は、地球の内側から働く内的営力による火山噴火や地震、地表の外側から働く外的営力による洪水・土砂崩れ・豪雪などの自然現象が原因となって起こり、その発生自体を止めることはできません。
内的営力による自然災害
日本列島の周辺には2枚の大陸プレートと、2枚の海洋プレートが集まっており、プレート同士が互いにぶつかり合うことで圧力がかかっています。
この圧力が、日本列島に地震活動や火山活動を引き起こしているのです。
海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む境界には、海溝やトラフが形成されます。
海溝付近では、プレート境界地震がしばしば発生します。
東日本大震災に代表されるプレート境界地震は、地震の規模を示すマグニチュードの値が大きく、津波をともなうことが多いのが特徴です。
プレート境界地震は陸地から離れた海溝が震源となるため、緊急地震速報が活用できます。スマートフォンなどで緊急地震速報を受信した際は、倒れる危険性がある家具などから離れ、特に頭を守るように行動しましょう。
阪神・淡路大震災や熊本地震に代表される活断層地震は、プレート境界地震に比べると地震の規模は小さいですが、大都市の近くで発生することもあり、大きな被害が生じることもあります。
活断層は日本列島のいたるところに存在しているため、都市や集落とも距離が近く、地震の発生から揺れが伝わるまでの時間が短いことが特徴です。活断層地震に対しては、家具の転倒防止対策などの日頃からの対策が重要となります。
まずは、自分の家から最寄りの活断層まで、どのくらいの距離があるのかを把握しましょう。
また、日本には111の活火山が分布しています。
日本列島において、火山噴火の影響を受けていない地域はありませんが、私たちの生活に影響を与えるような大規模な噴火が起こるまでにはさまざまな前兆現象があり、いきなり大噴火が起こる可能性は低いとされています。
その一方で、鹿児島県の桜島など、毎日のように小規模な噴火を繰り返す活火山もあります。また、登山客の多い富士山も活火山のひとつであることも忘れてはいけません。
活火山に登山する際にはヘルメットを携帯し、登山届を提出するようにしましょう。
外的営力による自然災害
日本は世界的に見ても降水量の多い地域です。
ふだんは恵みの雨として、生活用水や農業用水として利用されていますが、梅雨の時期や台風が襲来した際には、大雨によって水害が発生することもあります。
また、日本の河川は世界的に見ると急流である傾向があります。世界の主な河川と比較すると、短い距離で大きな高低差を流れ下っていることがわかります。
勾配が急であると、その分、侵食や運搬の作用が強くなり、土砂災害を引き起こしやすくなります。
さらに、近年の人工的な土地の改変が、大雨による浸水の原因となっている場合もあります。
森林や田んぼは、雨が一気に河川に流れ込まないように、水を一時的にため込む役割を持っています。近年の住宅地の拡大によりアスファルトによる舗装が増えたことで、降った雨が土中に染み込みにくくなっています。その結果、河川が急に増水し、支流からの水を本流に排出できなくなるなどして、低い土地での浸水が発生するのです。
身近な地域の特徴をGISで把握する
日本ではさまざまな自然災害が発生することを見てきました。
では、身近な生活圏の防災を考えるためにはどうすればよいのでしょうか。
第一学習社が所在する広島市西区のJR横川駅付近で考えてみます。
まず、地域で最も警戒しなければならない災害を考えます。
広島市では、大雨による浸水と土砂災害に警戒が必要です。
過去の災害事例として、2014年には、広島市安佐南区を中心に、大雨によって多くの土地で土砂災害が発生しました。また2018年の西日本豪雨では、東広島市や呉市など県内の広い範囲で土砂災害が発生しました。
さらにスケールを絞って、第一学習社のオフィス周辺の地形を把握します。第一学習社の近くには太田川放水路、天満川、旧太田川(本川)など複数の河川が流れています。
広島市の市街地は太田川が作る三角州の上に立地しており、低い土地のため、浸水の被害が発生する恐れがあります。
一方で、太田川放水路の西側は宅地のすぐ近くまで山がせまっています。
広島市全域の特徴として、このように山地のすぐそばまで住宅地が広がっている場合が多く、土砂災害にもあわせて注意が必要です。
地域の特徴を理解する際には、過去の土地の姿を理解しておくことも大切な視点です。
現在、第一学習社のすぐ西には太田川放水路が流れていますが、これは1968年に完成したものです。放水路ができる以前は、周辺はどのような土地だったのでしょうか。
そんなときに役に立つのがGIS(Geographic Information System)です。例えば国土交通省国土地理院が公開しているウェブ地図の「地理院地図」では、マップを空中写真に変えることができ、過去の空中写真まで表示することができます。
国土交通省国土地理院「地理院地図」
さらに「並べて比較」の機能を使うと、現在の姿と簡単に比較することができます。
ほかにも、「今昔マップ」というサイトでは、画面を最大4分割して表示することができるため、土地の変遷をさらに詳細に分析することができます。
今昔マップon the web
国土地理院の「地図・空中写真閲覧サービス」のサイトでは、さらに多くの空中写真や地形図を扱っています。
戦後すぐアメリカ軍によって撮影された写真まで表示・ダウンロードすることができるため、都市の復興の課程を理解することなどにも活用できます。
国土交通省国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」
https://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do#1
これらのウェブGISで第一学習社周辺の過去の地形を調べてみると、太田川放水路ができる以前はオフィスの目の前に川が流れていたことがわかります。
この川は福島川という川で、太田川放水路ができる以前、現在の天満川から分岐するかたちで海へ流れていました。
実は第一学習社の目の前の道路は、周囲よりも少しだけ土地が高くなっています。これは福島川が流れていた当時の堤防の名残で、「地理院地図」の「治水地形分類図」を表示することでわかります。
地域の特徴を詳細に理解するには、GISの活用が重要になります。
紹介したどのサイトも、無料で利用できますので、ぜひ地域の防災に活用しましょう。
過去の土地のようすを調べることで、思わぬ発見があるかもしれません。
避難経路を考える
では、実際に災害の危険性が高まった際には、どのような行動をとればよいのでしょうか。
真っ先に思いつくことが安全な場所への避難かと思います。
そして、災害が起こる前に避難場所や避難経路をしっかりと把握しておくことが、いざというときの行動の指標となります。
それでは、第一学習社のオフィスを事例に、避難場所と避難経路を考えてみましょう。
そもそも、避難に関する情報はどこで公開されているのでしょうか。
災害の程度や避難に関する情報がまとめられた地図がハザードマップです。
ハザードマップは、各自治体がホームページで公開している場合がほとんどです。
また、国土交通省の「わがまちハザードマップ」というサイトでは、日本全国のハザードマップを確認することができます。この「わがまちハザードマップ」を使って、第一学習社周辺を確認しましょう。
国土交通省「わがまちハザードマップ」
https://disaportal.gsi.go.jp/hazardmapportal/hazardmap/index.html
第一学習社が所在する広島市西区のJR横川駅付近の洪水ハザードマップを表示します。
第一学習社の周辺では、0.5~3メートルの浸水が予想されています。
このように、ハザードマップには、災害による被害の程度が示されているので、自分が暮らす地域でどの程度の被害が生じる可能性があるかをはじめに確認しましょう。
次に、ハザードマップには、避難場所が掲載されているので、近所の避難場所を確認しましょう。
ハザードマップの凡例を見ると、第一学習社がある三篠小学校区において、優先的に開設される避難所は、三篠小学校であることがわかります。
それでは、三篠小学校までの避難経路を考え、避難場所までの距離を計測しましょう。
地理院地図には、「計測」機能があるので簡単に距離を計測できます。
ポイントは直線距離ではなく、道路に沿って計測することです。
第一学習社から避難所の三篠小学校までは、およそ670メートルでした。
Google mapの経路案内機能でも代用できるので、そちらもおすすめです。
さて、避難所までの避難経路を確かめましたが、ここで注意が必要です。
先ほどのハザードマップを見ると、避難所の三篠小学校までの多くの土地で、0.5~3メートルの浸水が予想されています。
大雨の際は視界が悪いうえ、すでに浸水が発生している場合もあります。場合によっては安全に避難ができない可能性があることまで想定しましょう。
その場合、別の避難場所への避難を考える必要が出てきます。
災害発生時にはどのような事態が起こるかわからないため、ふだんから複数の避難場所を確認しておくことはとても大切です。
それでは、2つめの避難場所を決め、そこまでの避難経路を考えてみましょう。
第一学習社のオフィスから近い避難所は、ほかに西区民文化センターや中広中学校などが指定されています。
どの避難所がより安全に避難できそうでしょうか。
ハザードマップをよく見ると、中広中学校の周辺に浸水想定の程度が小さい場所があることが読み取れます。
実は、中広中学校の付近にも堤防の跡が残っており、そこだけ周囲よりも浸水想定が小さくなっているのです。
できる限り被害を受けないような避難場所と避難経路を選ぶためにも、ハザードマップをしっかりと読み込むことが大切になります。
自分が生活する地域に置き換えて考える
今回は広島市を事例に避難場所と避難経路を考えましたが、場所が異なれば、警戒すべき災害も、被害の程度も異なります。
自分が暮らす地域で警戒すべき災害は何だろうか。
想定した避難経路の途中に危険な箇所はないだろうか。
いま一度、身近な地域のことを深く知り、災害による被害を減らすことができないか考えてみましょう。
災害多発国である日本列島に暮らす限り、自然災害と共存しなければなりません。そのため、災害による被害を最小限におさえる「減災」の考え方が重要になってくるのです。
まとめ ~「正常性バイアス」を乗りこえる~
ここまで災害発生のメカニズムから、避難の想定までを見てきました。
大切なことは、被害が発生してしまう前に、避難を完了することです。
高齢のご家族や小さなお子様と同居している場合には、避難に多くの時間がかかると想定されます。被害が発生する前に、早めに避難の判断をすることが大切になります。
人間にはどうしても、平静な心を保とうとする「正常性バイアス」が働きます。
正常性バイアスを乗りこえるためには、状況や情報を適切に判断できるための知識や訓練が必要です。
関東大震災から100年となる2023年9月1日の「防災の日」をきっかけに、身近な防災について考えてみてはいかがでしょうか。
参考文献