はじめに
この連載では、広い学びへ興味をもつきっかけを作る目的で、第一学習社の編集者が見かけた興味深い論文や研究を不定期に紹介していきます。
論文というのは、学びの最先端がまとめられたとても面白いものです。しかし、大学の研究以外では、日常的に触れることは多くありません。また、内容も難解なものが多いです。しかしそのハードルを越えれば、自分の目で見る世界の解像度が、少し明瞭になっているはずです。
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今回、紹介するのはこちらのレポートです。
「Permafrost and Culture」直訳すると「永久凍土と文化」。日本とロシアの研究者たちの共同研究で、シベリアの永久凍土と、そこに暮らす先住民たちの暮らしについて、地球温暖化の視点からアプローチしたものです。
もともとロシア語でリリースされたもの英語版になります。
上記リンク先「Research Gate」というサイトは、いわば研究者たちのネットワークで、情報を共有したり、気軽に討論したりできるSNSのようなサイトです。
ちなみに、本レポートはAmazonのKindle版を無料で入手できます。
高校生・大学生向けのテキストとして作成されたそうで、高校英語までのスキルで十分に読み進めることができます。
https://www.amazon.co.jp/Permafrost-Culture-Warming-Republic-Federation-ebook/dp/B08ZMH66R2
用語解説
永久凍土
英語ではPermafrost。
地温が1年中0℃以下で、2年以上にわたって凍結している土壌を永久凍土と呼びます。ロシアのシベリアや、アメリカのアラスカなどに分布している土壌で、高校地理では気候の学習の際に、必ず扱う用語になります。
現在、地球温暖化によって永久凍土の融解が進んでおり、世界的な問題となっています。本レポートのキーワードの1つです。
サハ族
本レポートのもうひとつの主役です。ヤクート人とも呼ばれます。
サハ族は極東シベリアに暮らすロシアの少数民族です。サハ族の祖先はトルコ系の民族であり、彼らは遊牧を生業として北方へと移動してきました。
「ロシア人」というと、肌が白くて目が青く、金髪をイメージしますが、実はロシア国内には100以上の少数民族が暮らしており、容姿もさまざまです。サハ族の見た目は私たち日本人とよく似ています。
本レポートでは、移動の歴史や生業の移り変わりなど、彼らの暮らしが生き生きとあらわされています。
またレポートの後半では、地球温暖化による生活の変化についての住民アンケートの結果が掲載されており、彼らが直面している課題についてを知ることができます。
読んでみよう。
さぁ,上記の知識がインプットされた状態で,実際に論文を読んでみましょう。
Research Gate(PDF)
Amazon Kindle
https://www.amazon.co.jp/Permafrost-Culture-Warming-Republic-Federation-ebook/dp/B08ZMH66R2
※英語がちょっと・・・という方は最後のおまけを先に見てみるのも良いでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?テレビでもなかなか取り上げられないシベリアでの生活が、たくさんの写真によってイメージされたのではないでしょうか。
筆者は下記のようなポイントが面白いと感じました。
サハの人々の極東シベリアでの生業は変化し、さらに現代社会の仕組みによって崩壊しつつある
(レポートp.21-26<PDFのページ23-28>)
レポートを読み進めていくと、かつてサハの人々がシベリアへ移動してきたことで、それまでの狩猟採集のくらしから、牧草を栽培し家畜を飼育する形態へと変わり、やがてソ連の成立と崩壊による社会構造の変化によって衰退し、現在はとても厳しい状況に置かれていることがわかります。
シベリアを含む北方ユーラシアは、その酷寒の気候から長らく人口希薄地帯であり、世界史の表舞台に出てくることはほとんどありません。
また、研究自体も少ないため、北方ユーラシアについての文献を見つけることすら困難です。筆者も本レポートの情報は初めて目にすることばかりで、サハ族の暮らしをリアリティを持って感じることができました。
地球温暖化によって人々の生活に危機が訪れている
(レポートp.32-36<PDFのページ34-38>)
地球温暖化によって、永久凍土の融解が問題となっていますが、具体的にどのような影響が発生しているのかについてまでは、簡単には情報を得ることができません。
しかし、本調査で実施されたサハの人々へのアンケート結果からは、温暖化の影響を鮮明に読み取ることができます。レポートp.32に書かれている「More than 70% of respondents experienced house and building subsidence and house floor deformation.(70%以上の人々が住宅や建物の沈下、床の変形を経験している。)」の部分は衝撃を受けました。
多くの地理の教科書や資料集では、永久凍土が融けることで、その直上の建物が傾いてしまうことが資料として示されています。サハの人々は盛り土をすることで対策をしたようですが、このような状況が実際に起こっていると知れたことは貴重でした。
おまけ
高校生・大学生向けの英語とはいえ、卒業して何年も経った筆者にとって、読解は困難の連続でした。
電子辞書や翻訳サイトに(かなり)助けられながら、なんとか最後まで読むことができました。苦労したぶん、得られたものも多く、チャレンジしてよかったと思えました。
翻訳サイト「Deep L」ではwordやPDFも翻訳できるようです。
ただ、使いすぎは自分のためにはならないですし、Deep Lも無料で利用するには上限があるようですね・・・。