第一コラムラボ

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【地理総合】最中からはじまる防災の旅

今回の主役「昭和九年」最中

 

最中に秘められた想いとは…

「ところで、昭和九年って刻印された最中があるんだけど知ってる?」
先日、石川県に出張に行った際、現地の先生に教えていただきました。
なんでも、昭和九年の手取川水害を忘れないようにと、考案されたお菓子なのだとか…

自然災害が頻発する日本では、防災・減災が課題のひとつとなっています。

また、高等学校で必履修となった「地理総合」では、防災が学習内容の柱のひとつとなっており、教科書や資料集では、過去の自然災害の被害を示す資料などが掲載されています。

地理編集者として、この情報は聞き捨てならない!
翌日、出張の合間を縫って、教えていただいたお店へレッツゴー!
地理の醍醐味、現地調査の始まりです。

いざ、お菓子屋さんへ

先生に教えてもらったお店がこちら。
石川県能美市にある「御菓子處たなか」さんです。

店舗外観

こちらのお店に、例の「昭和九年」最中が売られているそうです。

 

 

さっそく買ってきました、ででん!

昭和九年 6個入り 1,560円也

 

開封してみましょう。

こんなにも大きく印字されているとはびっくりです。

半分に割りやすいよう、切れ込みが入っています

 

中にカステラ生地とはめずらしい…

中はこんな感じ。
粒あん・バタークリーム・カステラ生地が入っています。
和洋折衷な甘い味付けで、お茶菓子にぴったりだと感じました。

 

教えてくださった先生いわく、「最中はだいたい、親戚が集まったときに食べることが多いですよね。先代から次代へと、最中を食べながら、水害の記憶を伝える役割があるんです。」とのこと。

なるほど。
どうして数あるお菓子の中から最中を選んだのか、理にかなっています。

最中が作られた背景とは…

さて、この最中が作られるきっかけとなった、昭和九年の手取川の水害とはどういったものだったのでしょうか。

そんなときに参考にしたいのが、「自然災害伝承碑」です。
自然災害伝承碑とは、過去の自然災害のようすや被害状況などが記載された石碑のことです。
国土地理院では現在、全国各地の自然災害伝承碑をデータベース化する作業を行っています。
定期的にデータは更新されており、2025年5月29日時点で、662市区町村・2,359基の自然災害伝承碑が登録されています。
さっそく、地理院地図で手取川周辺の自然災害伝承碑を確認してみましょう。

地理院地図で「自然災害伝承碑(すべて)」を表示

上記画面へのリンクはこちら

maps.gsi.go.jp

 

手取川の周辺には3基の伝承碑が登録されています。
クリックすることで、伝承碑の概要を確認することができます。

簡単に伝承碑の情報を確認できます

お店から車で5分の場所に、昭和九年の水害の伝承碑が建立されていることが分かりました。
早速行ってみましょう。

自然災害伝承碑をめぐる

到着しました。
こちらが水害記念碑です。

伝承碑の全体像


伝承碑の裏には遊園地があるのが、何とも言えない雰囲気を演出しています。

手取フィッシュランドが裏にあります

こちらが手取川の本流です。
河口から約4.5㎞の位置ですが、堆積している土砂の粒が大きいなという印象を持ちます。

手取川橋付近から下流を望む

石碑の隣には、水害の概要が記されていました。
梅雨明けの豪雨が残雪をとかし、堤防を決壊させ、周辺の集落を襲ったと解説されています。

後世になって解説が設置されたようです

もう1基、伝承碑をめぐってみましょう。
もう少し上流にある、こちらの石碑を訪れてみます。


どうやら、昭和九年よりも以前の、明治29年の水害に関わるものだそうです。

 

到着しました。
堤防の上に、伝承碑がたたずんでいます。

伝承碑の周辺はきれいに整備されています

随分と年季の入った碑文です。

漢文調のため、解読が難しいです

地元の教育委員会が、碑文を解説しています。
このような立て看板はとてもありがたいです。

教育委員会の地道な読解に、頭が下がる思いです

こちらの石碑、実は特徴的な場所に建っています。
どんな場所にあるのか、石碑の裏手に回ってみましょう。

 

 

裏に回ってきました。

車の右手の茂みに石碑があります

 

写真右側に石碑があります。
石碑は堤防の上にあるので、左手は川になっているのかと思いきや…

あれあれ、田んぼを挟んでもう一つ堤防が見えます。
これはどういうことでしょう。堤防が二重になっているのでしょうか?


手取川の堤防に施された工夫とは!?

ここで地理院地図をもう一度確認してみましょう。
地理院地図には土地のようすをあらわす様々な機能があります。
今回は「陰影起伏図」の機能を使ってみます。

地理院地図で「自然災害伝承碑(すべて)」と「陰影起伏図」を表示

上記画面へのリンクはこちら

maps.gsi.go.jp

なんということでしょう!
伝承碑の周辺の堤防が、途中でぷつりと切れているではありませんか!?

 

実はこれ、設計ミスではなく、れっきとした伝統的な水害対策なのです。
このように堤防の途中の区間に開口部を設けた、不連続な堤防を「霞堤」と呼びます。

洪水時には開口部から水が逆流し、水がゆっくりあふれ出ます。
洪水が終わると、あふれ出た水はゆっくりと排出されるようになっています。


わざと水をあふれさせることで、堤防の決壊を防ぎ、大きな被害が生じるのを防いでいるのです。

「霞堤のしくみ」第一学習社『最新地理図表GEO』p.54

角度を変えて見てみます。

堤防の切れ間から上流方向を望む

 

水は写真の手前側からあふれ出て、水田を水没させます。
遊水地として選ぶ場所も、人的な被害が出ないようにあえて水田を選ぶように工夫されていることがわかります。

おわりに

最中をきっかけに急遽はじまった今回の現地調査ですが、
現地のようすや伝承碑を目で見て、堤防の高低差を体で感じ、最中の甘さを舌で感じる…


フィールドワークのおもしろさが詰まったものになりました。

 

自然災害の被害を後世に伝えていくことは、今を生きる私たちの使命でもあります。
伝承碑のほか、物語やことわざなど、これまでも様々な方法で伝承されてきました。


今回、食べ物で紡ぐという方法を知り、さらに知見が広まりました。

 

地理総合で学習した防災についての知識は、高校生には、ぜひ地域社会に還元してほしいと思います。
地理と家庭科や総合的な探究の時間をコラボレーションさせ、災害を伝承する新商品を考案する取り組みもおもしろいかもしれません。