はじめに
去る2023/1/14・15に大学入学共通テストの本試験が,1/28・29には追試験が,それぞれ実施された。
受験生の皆様,お疲れ様でした。まだまだ受験は続くという方は,今一度気を引き締めて最後まで頑張ってください。
さて,今年の共テ(本試)で,唯一得点調整された科目がある。
何か。理科②である。
【プレス発表】令和5年度大学入学共通テスト(本試験)の得点調整について
端的に言うと,「生物」の点数がとにかく低かった。
中間集計時点では40点弱と,昨年の平均点48.81点よりもさらに低い結果であった。
対して「物理」の平均点は約63点と大きく差が開いてしまったため,得点調整が実施されることとなった。
また,最高得点が99点と,誰も満点を取ることができなかったらしい。
とにかく,今年の共テ「生物」は難しかったのである。
ところで,ChatGPTってすごいよね。
ところで,ChatGPTってすごいよね。
これまでにChatGPTは,ペンシルベニア大学ウォートン校の経営学修士プログラムの最終試験を受験し,見事合格したとのことである。
また,アメリカ医師免許試験においても,正答率50%以上を達成し,合格圏内に入るとのことである。
さらに,AP Computer Science Aというプログラミングに関する試験でも,高得点をたたき出したそうだ。
ChatGPTがMBAの試験に合格 教育分野での可能性と限界について考える(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース
これはもしや……イケるのではないか……?
ChatGPTなら全国の受験生にすら成し得なかった2023年の共テ「生物」で満点をとれるのではないか……?
激ムズだった令和5年度共通テスト「生物」(本試)(の一部を)ChatGPTが解いてみた。
手順は以下の通りである。
- 令和5年度共通テスト【生物】(本試)のテキストをChatGPTに打ち込む。
- ChatGPTからの回答を待つ。
- ChatGPTの回答を評価する。
シンプルである。
なお,図表を扱った問題には非対応(※)なので取り上げない。また,ChatGPTが回答しやすくなるよう,一部問題文を改変している場合があることを断っておく。
※下にもあるが、今回の環境はGPT3.5である。GPT4だと画像入力による問いかけなどもあるようだが、今回はスルーしている。
また,今回使われるChatGPTのバージョンは3.5(無料版)である。
以上だ。それではいってみよう。
第1問
問1
ChatGPT解答:5、正答:5
いきなり正解である。
幸先の良い滑り出し、やはり人類はAIには敵わないのか。
しかしよく見ると「調節タンパク質は,遺伝子のプロモーター領域に結合して」などと書かれている……?
ふつう調節タンパク質は転写調節領域に結合するのであって,プロモーターには結合しなかったような……?
解説の記述には疑問が残る。
第2問
問1
ChatGPT解答:4、正答:7
不正解。
abcすべてが正しいという正答に対して、cを見落としたChatGPT。
これで満点は無くなった。
ガッカリだよChatGPT!
とはいえ,まだまだ問題は残っている。
どんどんいこう。
第3問
問1
ChatGPT解答:7、正答:8
不正解。
アブシシン酸の選択以外は正解。前段に続き、惜しいところまでは行くのだが、正解には至らない。
ニンゲン様を舐めるなAI。
種子の休眠・発芽には,ジベレリンとアブシシン酸が拮抗的に働いている,というのはちゃんと覚えておこう。
第4問
問1
ChatGPT解答:4、正答:3
おやおや?不正解多くない?
カルビン・ベンソン回路には酵素が関わっている。
酵素の主成分はタンパク質であり,その構成要素であるアミノ酸には窒素が含まれる(もちろん炭素も含まれる)。
「窒素を含まない有機物」=「炭素を成分とする有機物」という解釈になっているのはいったいなぜ……?
やはり解説には疑問が残る。
問2
ChatGPT解答:5、正答:3
不正解。
これは私も初見で間違えたのでしょうがない(すいません)
純生産量は,生産者の呼吸量が既に差っ引かれた値なので⑤は不適でした。
問5
ChatGPT解答:6、正答:6
久々に正解。
しかし文章では「有機窒素化合物を合成する際に必要なエネルギー量は,アンモニウムイオンを用いる経路の方が大きい」とは述べられてない……それはあなたが述べたんですよ……
解説がなぁ…
第5問
問1
(ア)ChatGPT解答:5、正答:5
(イ)ChatGPT解答:3、正答:4
半分が正解。
アについて,「遺伝子Mをもつ個体」は「遺伝子Mをもつ母」と解釈しよう。母性因子は母となる個体の細胞で合成され,卵に貯えられる。このため,母が遺伝子Mをもっていれば,正常に機能する母性因子が卵に貯えられることになり,正常に発生する。
イの解説はちょっと何言ってるかわからない。イは素直な問題なので,アは正解したがイは誤ったという受験者はさほど多くないのでは?
問2
ChatGPT解答:a、正答:a または a, c
正解・・・?と思いきや、これはくせ問である。
というのも、この問題は本来はa, cが正解なのだが、問題の不備によって、aも追加で正解とする、という経緯があった問題である。
不備によって得点を得たChatGPTである。
これがAIの力なのだ。
問3
(働きの考察組み合わせ)ChatGPT解答:f, h、正答:f, g
(性質の推論)ChatGPT解答:9、正答:8
共に不正解。
長文なのでしょうがない……?
実験2では,遺伝子Xの働きは失われているが腹部が形成されているので,hは明らかに不適。
実験3で,タンパク質Yを強制発現させた場合腹部が形成されている。つまりタンパク質Xがタンパク質Yに結合してその働きを阻害しているのだとすると,タンパク質Yを強制発現させた場合でも,タンパク質Xの働きにより腹部は形成されると予想される。しかし実際には腹部は形成されていないので,タンパク質Xはタンパク質Yには結合しないと考えられる。
第6問
問1
ChatGPT解答:a, d、正答:c, d
群れの大きさは,種内競争の影響を受けまぁす!
やってみた感想
結果はなんと,脅威の12問中4問正解!!!すごすぎるぞ!!!サイコロ振るよりちょっとマシそう!!!
正直、拍子抜けな結果ではありますが,下記のようなことをすればもう少しマシな結果になったのかなと思っています。
- そもそもの試行錯誤の少なさ
- AIに解答させるための入力文の改善
- 入力を英語で行う
試行回数に関しては,執筆中も不正解を中心に何度か試し,解答にゆらぎが出ました。ただし,不正解が正解に収束する例は,今回はありませんでした。
英語でも結果が変わるかもと思い,単純に入力文を英訳したもので試してみましたが,結果に大きな差は出ませんでした。
まぁ,こんなものなのだろう,と思っていた矢先です。
本記事執筆中にGPT4が発表。
コレにより,今回の結果は既に古くなったと言わざるを得ないでしょう。
なにせGPT4だと、生物オリンピックの成績が上位1%という結果がOpenAI公式から発表されています。
このことを踏まえると今回の企画もまた,GPT4であれば,また違った結果が出ていたでしょう。
有料版,試してみたい!
さて,というわけで,今回は共テの前に華々しく散ってしまったChatGPT。
しかし別にそれでよいのだ。
だって共テを受験するのは人間だもの。
昨今,ChatGPT以外にもさまざまなAIツールがリリースされているが,ツールはあくまでツールであって,それらを何にどう活かすか(あるいはそもそも活かせるのか)は使用者次第である。
教育現場で喧伝される主体性の問題がここにも表れているようにみえる。
使えるものは使う。
そしてその意思決定に自ら責任を負う,人間だもの。
筆者はこの執筆を通じて,ホモ・サピエンス20万年の歴史を背負い,これからもプロ・サピエンス※としてしっかり生きていこう,と思ったとさ。
※プロフェッショナルな現生人類ということが言いたかった。