本記事は『国語課の編集者が語る国語便覧座談会』の様子です。
便覧。それは教科書でも問題集でもない書籍。
授業ではそんなに使った記憶はないし,記憶に残っているのは厚く重いということくらいという方もいらっしゃるかもしれません。
しかし国語便覧はとても国語編集の熱量がこれでもかと凝縮された珠玉の一冊ということがわかりました。
『大人になってから便覧の価値に気がついた』そういう声も少なくありません。
本記事はその熱と魅力を伝えるために,現代文・古文・漢文がそれぞれ専門の国語の若手編集3名に来ていただき,便覧について語ってもらいます。
今日は弊社の看板商品でもある国語便覧について,実際に編纂に携わっている国語のプロフェッショナルに語ってもらおうと思います。
ジャガーです。専門は現代文。よろしくお願い致します。
さるです。専門は古文。よろしくお願い致します。
うさぎです。専門は漢文。よろしくお願い致します。
早速ですが,便覧にまつわる思い出やこだわりを話してもらっていいですか?
一生使える本として
「ふんわり」した入口と「がちがち」の中身
現行版の企画がスタートしたとき,「今(現在の旧版)の便覧は頭から堅すぎるから,冒頭を『ふんわり』させよう」という方針が示されました。
『ふんわり』とは…具体的にはどのように?
各章の導入に,読者の興味を強く惹くような特集ページを組んだんです。
古文なら「古文の世界の背景を知ろう」,現代文なら「文学とメディアミックス」,漢文なら「中国文学の日本文学への影響」などといった感じの特集ページを作りました。
アニメ・マンガ好きにはメディアミックスという単語には反応せざるを得ません。
今年,直木賞を受賞された米澤穂信さんのデビュー作〈古典部〉シリーズの『氷菓』や,筒井康隆さんの『時をかける少女』を紹介しています。
『時かけ』は実写からアニメまである国民的メディアミックス作品といっても過言ではありませんね。便覧掲載も納得です。
SNSで「『文豪とアルケミスト』が便覧に名前が出ている!すごい!」みたいな投稿を見かけることがあるんですが,あれは多分うちの便覧だと思う。
本を侵し、この世界から消し去ることを目的とする侵蝕者に対抗できるのは“アルケミスト”の力で転生を果たした文豪達のみ。文豪は侵蝕された本に潜り、侵蝕者を討ち果たすことで本を救う。
リンク先よりあらすじを引用
そうそう!『文アル』のほうは文字だけですが,『文スト』はコラボ文庫カバーの画像を載せてます!
※文スト=文豪ストレイドッグス
太宰治,芥川龍之介,中島敦といった文豪がキャラクター化され,それぞれの文豪にちなむ作品や,ペンネームなどの名を冠した異能力を用いて戦うアクション漫画である。
リンク先作品解説より
中島敦,芥川龍之介,太宰治のコラボカバーが掲載されてますね。
近年のコンテンツもバッチリ抑えてます。
実は『文スト』って全然知らなかったんですが,これ,中島敦なんですか?
実在した作家や詩人たちが,自著をモチーフにした異能で戦ったりするんですよ。
中島敦は虎になるんだっけか。
なるほど,山月記の李徴ですね。
中原中也は重力を操りますよ。
中原中也ってSF作家でしたっけ?
返しがおもしろい。
汚濁モードは「酔ったときの中也」感がすごいですよ。
中原中也の酒癖は物凄く悪い逸話がありましたね…。
便覧片手に文ストの鑑賞会とかもしたいね。話を戻しましょうか。
導入はこんな感じでサブカルの話題も織り交ぜつつ『ふんわり』させました,ということですね。
中島敦といえば,「中国文学の日本文学への影響」で,中島敦の『山月記』の元ネタとも言える『人虎伝』についても言及していますね。
はい,虎になるプロセスが『人虎伝』と『山月記』では異なるポイントなども解説されています。
ここ面白いですね。自尊心や羞恥心といった内面的な要因から化物になるというのは,西尾維新の〈物語〉シリーズにも通じるような…
『猫物語』ですね。あれも虎で炎が…これ以上はちょっと止めておきましょうか。
特集だけでこれだけ掘り下げられるのは,国語便覧の凄いところだと思います。
もちろん,中身のほうは従来から評価を頂いている『がちがち』に文学史などを学べる構成になっているので,高校生だけでなく,一生使っていける本になっていると思う。
一生の教養書として
便覧は授業ではあまり使わない,といった声もあるわけですが,一生使えるなら十分に元はとれますね。
自分も高校時代に「授業で便覧を頻繁に使った」とは言い難いです。
でも眺めるのは好きな人は多いハズ。印象的な一冊なのは,今も昔も変わらない。
『国語』便覧と言いつつ,歴史・倫理といった,関連した諸々の教養がぎゅっとまとまってますしね。
実際,核が国語になっているというだけで,国語便覧がカバーしている教養はかなり広いと思います。
便覧が「役に立つ」シチュエーションって,圧倒的に学校を卒業したあとの方が多いのではないかな〜と思いますね。
それでいうと,現代文・古文・漢文に続いて『表現』の章が目に留まります。
うちの会社は小論文の添削事業もしているので,小論文に関する知見が豊富です。そのアドバンテージを活かしています。
論理的な文章の書き方とか,小論文で使われるトピックへの視点の解説などは大人になっても絶対に役に立ちますね。
これが一冊にまとまっているというのは本当に凄いことだと思います。
本当に。手放しちゃいけませんね。
創作のお手元に
先生方や,私ら編集者みたいに国語を生業にしている人種はともかくとして,SNSなんかをみてると創作活動している人の手元資料として国語便覧が活躍しているのは散見します。
創作活動というと?
いわゆる二次創作が多いですね。ジャンルとしては文スト・文アルは勿論ですが,FGO※,刀剣乱舞もよく見かけます。
※FGO: Fate/Grand Order
参考リンク
スマホでフェイト! | Fate/Grand Order 公式サイト
アニメ『活撃 刀剣乱舞』公式サイト -アニメーション制作 ufotable-
文豪たちが出てくる作品と国語便覧が資料として相性がいいのはわかりますが,それらはなんでなんですか?
刀剣乱舞は伝記における持ち主が刀剣男士のモチーフになってるからかな。和装も多いし。
FGOは過去の偉人が出てくるので,文豪もキャラクターとして登場します。
アンデルセンとかシェイクスピアとかね。
便覧との相性でいうなら,紫式部と清少納言なんかはカバーする範疇としてど真ん中と思います。「頼光四天王」のような英雄の活躍を語り継いできた媒体として,説話や御伽草子,歌舞伎・浄瑠璃なんかも紹介していますね。
あ,そういえば2部の5.5章「地獄界曼陀羅 平安京」は平安京が舞台なので,プレイ中に便覧で平安京に関するページ見たりしました。
2部5.5章は藤原道長も出てきますね。
作中の都の様子とか想像つくと物語の脳内解像度上がりますよね。
史実や原典を確認するタイプのオタクには本当に国語便覧とか資料集はありがたいんですよ。
滝沢馬琴実装されないかなぁ…
※2022/08/17追記:おさる「曲亭馬琴、弊カルデアにお迎えしました」
参考リンク
ちはやふる作者が国語の補助教材『国語図説』を語る感想が熱すぎる「百人一首は百首掲載!歌枕の地図分布まで!」「源氏物語は全帖解説!」 - Togetter
オタクは高校の時に買わされた国語便覧と古文単語の副教材を一生使うから捨ててはいけない→その他にとっておくべき教材も「小説書くときめっちゃ役立つ」 - Togetter
中編に行く前に,閑話休題。
次の話題に行く前に聞いておこう,この中でFGOやってる人,挙手。
✋ 推しはアルトリア(キャスター)。
✋ インドの箱推しです。
✋ 推しは葛飾北斎。宝具レベル5です。
え~やってないの僕だけですか。漢文的になんか取っ掛かりあります?
中華系のキャラだと始皇帝いたよね。
始皇帝死後の楚漢戦争から,項羽と虞美人とセットで実装されてますね。
あ!『項羽と劉邦』は漢文の定番題材ですね!
項羽はケンタウロスみたいな人馬型のサイボーグになってる。
どうしてそうなります?
あと腕が六本あって,背中からビーム出す。
わけがわからないよ。
理解が追いついていませんね。
虞美人もサイボーグですか?
完全に疑心暗鬼に囚われてる。
便覧が読みたくなってきたでしょ?
むしろFGOが気になってきましたよ。
次回・中編は『便覧とデジタル化』,お楽しみに!
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