本記事は『国語課の編集者が語る国語便覧座談会』の様子です。
便覧。それは教科書でも問題集でもない書籍。
授業ではそんなに使った記憶はないし,記憶に残っているのは厚く重いということくらいという方もいらっしゃるかもしれません。
しかし国語便覧はとても国語編集の熱量がこれでもかと凝縮された珠玉の一冊ということがわかりました。
『大人になってから便覧の価値に気がついた』そういう声も少なくありません。
本記事はその熱と魅力を伝えるために,現代文・古文・漢文がそれぞれ専門の国語の若手編集3名に来ていただき,便覧について語ってもらいます。
『サブカルチャーと国語便覧』を中心に話題とした人気の前編はこちらです。
デジタル化
業界初の完全デジタル化
ウチの便覧はデジタル化もされてますよね?
はい,これまで先生向けの…授業で掲示するための素材集的な便覧のデジタル版は他社さんでありましたが,学習者が使えるような形で便覧を電子書籍にしたのは業界初でした。
業界初,というからには当然ハードルがあったと思います。なぜ今までなかったんでしょうか?
簡単に実現しなかった理由はいくつかありますが…。
一番のハードルは,写真などの権利処理を新たに行う必要があったからです。
権利処理。
そうです。掲載の写真1つ1つに権利者がいらっしゃって,紙とデジタルでは許諾が異なったりするので,それを一つ一つ解決する必要がありました。
便覧って,構成要素ほぼ写真ですよね。
そうです(笑)
写真の数のあまりの膨大さに課内では当初「無理では…?」という声も多かったんです。
他部署の協力も得つつ,なんとか刊行にこぎつけることができました。
思い出語ってるだけでやつれてきましたね。
下記リンクの体験版より,デジタル版国語便覧のサンプル版を読むことが出来ます。
やっただけのことはありますよ。
一人一台端末をしている学校さんで,便覧本体はデジタル,ワークノートは持ち歩きでガッツリ活用してるところもあるみたいです。
そういうところはGoogleフォーム問題(後述)との相性も良さそうだね。
デジタル化と写真
デジタル化に付随して,写真を全点見直したんですよ。
権利処理だけではなく,素材そのものの見直しですね?
はい。紙と違ってデジタルだと拡大できたりするじゃないですか。
そうなってくると,自然や建造物などの風景写真の画質が粗い,とかが気になってくるわけです。
拡大して画質ボロボロだと残念ですよね。
他にもイメージ写真に出てくる人たちのファッションが古いとか,著者近影もいい加減年とってるはずの人がいまだに若々しい…など古臭さすら漂っていた旧版から一新しました。
教科書とかのイメージ画像の謎の古臭さってあるあるネタな気がします。
いい機会だったのでスッキリ更新しました。
わたしは古文編の写真の見直しを担当している中で,特に和歌や俳諧のイメージ写真の選定に苦労しました。
印象深いものってあります?
ハエとシカです。
まずハエですが,小林一茶の「やれ打つな蠅が手をすり足をする」に関するイメージ写真の選定です。
有名な句ですね。
蠅が手をこすっているような画像かつ,虫嫌いの生徒さんが嫌な気分にならないようにできるだけ見た目が気持ち悪くないものを,大量の蠅画像を薄目で見ながら選んだんですよ。
なんかそういう拷問ありそう。
そもそもハエの画像ってそんなに大事?
大事です。
言い切ったね。
シカにはどんな思い出が?
シカは百人一首の「世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる」に関するイメージ写真の選定です。
シカの写真なんて困らなさそうだけど…。すぐそこの宮島とかわんさかいますよ。
※収録地は広島市です。
「鹿が鳴く」という表現は、古典の和歌において、妻恋いするオスの鳴き声をよんだものであることが多いんです。
そうです。なので、「オスの鹿」で、妻恋いするのに何頭も群れていたら変なので、「山の中」で「鹿一匹」という写真を一生懸命探しました…。
いらすとやさんならすぐに作れますね。
いらすとやさんすごい。
結局見つけきれなくて,先輩が見つけてくださったものを使いました。
見つかってよかったです。
先輩すごい。
あ!あとウチの便覧は仏像の写真豊富ですよ。見開きで特集あります。
これはどんなこだわりがあるの?
仏像が好きだからです!!
※仏像などの美術品は写真の権利がとても厳しいので,ぼかしを入れました。見づらくて申し訳ありません。
職権濫用?
これは良い職権濫用です。
現場からの声
ビジュアル索引
この国語便覧についての現場での意見でよく聞かれるものってどんなものがありますか?
「これが欲しかった!」とよく言われるのは「ビジュアル索引」ですね。
時代やジャンル,人物などの観点から,文学史をマッピングした力作です。
「こういうのを作りたかったけど難しくて断念したんだ」という現場の先生の声は聞いたことがあります。
『古典文学ビジュアル索引』の竹取から中世随筆への繋がりなんかは見てて面白いですね。
ビジュアル索引とは違うけど,自社版便覧で藤原家の系図が凄いってデイリーポータルZさんの記事で見ました。
古文や文学史をしっかり理解しようと思ったとき,どうしても人間関係とか,思想間の関係とか,図で俯瞰して見られると便利ですからねー。
Googleフォームで小テスト
便覧って問題集ではないけど,小テストの題材にも出来ますよね?知識の確認とかで。
最新版からはGoogleフォームで解答ができる一問一答を用意しました。
クラウドで配布から集計までできるので,コロナ以降とても需要が高まっています。
これもデジタル化との相性がよさそうだね。
実際にこのメンバーで解いてみません?
中古の文学史からやってみましょうか。
便覧見ないで実力でやってみましょう。
<10点満点問題を回答・・・>
3点!
9点。
10点。
10点。
古文・漢文担当はさすがの満点ですね。
「正しくないもの」を選ばないといけないのに,正しいものを選んでました!凡ミスです!
なるほど〜,惜しかったですね!
流そうとしてますが,3点はちょっと酷いです。
恥ずかしい…。映す価値無しです。
消える〜
いよいよ次回最終回『国語編集マンが語る,便覧のここがスキ』,お楽しみに!
デジタル版国語便覧サンプル
下記リンクの体験版より,デジタル版国語便覧のサンプル版を読むことが出来ます。
第一学習社の国語副教材