前編のおさらい
前編では,タイトルの通り,新型コロナウイルスに対する新型のワクチン,mRNAワクチンの働きを,高校生物の知識で解説する,という内容だった。今回はその後編の記事にあたる。
前編はこちら↓
前編の内容を簡単におさらいしておくと,
1. ワクチンとなるmRNAの準備
- 新型コロナウイルスのゲノムは公開されている。
- ゲノムの配列をもとに,新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の情報をもつmRNAを試験管内で合成する。(大量生産が可能)
2. mRNAのヒト細胞への導入,ヒト細胞内でのウイルスのタンパク質の合成
- mRNAは不安定な物質で壊れやすいので脂質ナノ粒子にいれて接種する。
という流れであった。
後編では,
3. ウイルスのタンパク質の細胞外への提示(抗原提示),リンパ球による認識
4. 記憶細胞の形成,二次応答による病原体の排除
を高校生物の範囲で解説していく。
なお,後編の内容のほとんどは,高校の「生物基礎」教科書で学習する基本的なものだ。さらに大学入試でもよく出題される分野なので,弊社発行の『スクエア最新図説生物neo』や『セミナー生物基礎』でも詳しく扱っている。
ウイルスのタンパク質の細胞外への提示(抗原提示),リンパ球による認識
ヒトの細胞内で合成されたウイルスのスパイクタンパク質はどうなるのだろうか。このタンパク質の運命には2通りある。
ここは,前回と同様以下の記事を参考にしている。
①細胞外に分泌される
合成されたスパイクタンパク質が,そのまま細胞外に分泌されることがある。そして,分泌されたタンパク質は食細胞(樹状細胞,マクロファージ,好中球)に取り込まれる。ここでは,樹状細胞に取り込まれた場合を考えることにする。
樹状細胞に取り込まれたスパイクタンパク質は,細胞内で分解される。そして,その断片が細胞外に出される=抗原提示される。そして,樹状細胞からの抗原提示を受けて,ヘルパーT細胞とキラーT細胞が活性化する。
活性化したヘルパーT細胞はB細胞を活性化する。そして,B細胞は抗体産生細胞に分化し,スパイクタンパク質に対する抗体をつくる。
活性化したキラーT細胞には……②で働いてもらおう。
②細胞内で分解される
ヒトの細胞内で合成されたスパイクタンパク質は細胞外に分泌されるほかに,細胞内で分解されてしまうこともある。この場合,スパイクタンパク質の断片はどうなるか?
これもまた細胞外に出されるのだ。ウイルスのタンパク質の断片を細胞外に出すことによって「私はウイルスに感染しました」と免疫細胞(主にキラーT細胞)に伝えるためだ。
活性化したキラーT細胞は,スパイクタンパク質の断片を認識すると,それを提示している細胞を攻撃し,破壊する。
記憶細胞の形成,二次応答による病原体の排除
ワクチンがワクチンとして機能するために重要なのが,この最後のステップだ。
上記のステップで活性化したB細胞,ヘルパーT細胞,キラーT細胞の一部は,記憶細胞として長期間体内に残る(記憶細胞の形成により,抗原の情報が記憶されるしくみは免疫記憶という)。
本物の新型コロナウイルスが体内に侵入したときには,この記憶細胞が速やかに反応することでウイルスが排除され,感染症を発症しないか,したとしても軽症で済むようになる。このように,一度記憶した病原体に対して生じる,速くて強い免疫反応を二次応答という。
※mRNAワクチンによって記憶細胞が形成され,長期にわたってワクチンの効果が持続するかはまだはっきりしない。
まとめ
本記事では前後編の2回で,mRNAワクチンのしくみについて高校生物の範囲で書いてきた。
色々はしょった部分もあるとはいえ,新技術が盛り込まれた最新のワクチンでも,基本的な仕組みは高校生物の知識で十分に理解できるということは分かってもらえたのではないだろうか。
それでは,mRNAワクチンに関する記事はこれにて完結。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。